ホタルの幼虫放流は、邪道

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 毎年この時期になると、全国各地でホタルの幼虫放流が盛んに行われ、テレビや新聞でも取り上げられる。地元のホタル保存会や老人会等が水槽でホタルの幼虫を養殖し、終齢まで育った大きな幼虫を3月頃になると、自然河川やビオトープに放流するというものである。幼虫は、紙コップに数匹程度ずつ分けられ子供たちに渡される。子供たちは、「大きくなってね。自然の中でたくましく育ち、きれいに光る姿が早く見たい」などと声を掛けながら、数百~数千匹を川に放つ。5月下旬には、ホタルが舞うのである。地域にとっては、毎年の恒例行事で14回目という場所もある。

 これらは、本質を捉えた行為であろうか?
 実は、ホタルの幼虫を3月に放流している地域、特に3年以上繰り返し行っている場所は、ホタルが定着していない可能性が大きい。3月に幼虫を放流しなければ、成虫が羽化しない、言いかえれば、ホタルが棲む環境には適していないということになる。

 では、ホタルが棲む環境には適していないのに、なぜ、3月に幼虫を放流すると成虫が飛ぶのか?放流された幼虫は、およそ一ヶ月後には、蛹になるために上陸し、土の中に潜るからである。自然界においては、孵化した幼虫は、短くて8カ月、長いと3年8カ月も水中で生活する。したがって、水中には色々なサイズの幼虫が同時に暮らしており、これが自然災害や他の様々なリスクを回避することになり、種の保存戦略になっている。しかし、これらは、水中の環境が基本的にホタルの生育に適していることが前提である。放流されるホタルの幼虫の生活場所は、その一生のほとんどを水槽で過ごし、屋外の河川またはビオトープでは、一ヶ月しか過ごさないのだ。
 ホタルが棲む環境には適していないと言える理由は、もう1つある。これらの場所では、成虫が飛び交っても産卵しない、もしくは産卵できないのである。
 成虫が飛びまわると、頃合いを見計らって採集し、次年度の放流のために籠の中で産卵させるということもそうだが、成虫が夜間に飛びまわって繁殖できる環境や産卵できる環境整備をまったく行っていないのである。造園業者が設計施工するビオトープは、あくまで箱庭で、本来のビオトープの意味からは程遠い。ホタルの成虫を捕まえて産卵させ、幼虫を水槽で大きく育ててから放流しなければ、成虫は飛ばないという構図になっているのである。
 ホタルは水辺に棲息するが、細かく見れば卵、幼虫、蛹、成虫の生活の場所が違う。幼虫が棲める水中と蛹になる岸辺を整えても、産卵に適した水際、そして何より成虫が飛びまわり、繁殖し、休息もできる空間も整えなければ、絶対に定着はしない。更には、これら環境は、豊かな生態系が構築されていなければ存続しない。ただし、これら環境を整えるには、膨大な時間がかかる。それが自然なのだ。
 「ホタルの幼虫を3月に放流すればホタルが飛ぶ」という考えは、本質を理解していない安易な考えなのである。

 幼虫の放流に関して、もうひとつ大きな問題がある。しれは、放流する幼虫の入手先である。もし、養殖業者等から購入しているとすれば、大問題である。自然河川であれば遺伝子撹乱問題もあるが、何より、ホタルの養殖業者は、元を辿れば自然発生地から成虫を乱獲して採卵しているのである。
  「ホタルを復活させたい」という思いで購入した行為が、実は自然発生地のホタルを絶滅に追いやっている可能性がある。業者は、ビジネスで自然保全やホタルの保護など頭にはない。反論があるならば、遺伝子を明確にし、無料で提供するべきである。

 ホタルの幼虫放流には多くの問題がありながら、多くの当事者たちは、これをホタルの保護、自然保全、環境教育と思いこんでいる。テレビや新聞等のメディアも同じだ。子供たちに、そして一般のホタルに関して知識のない方々に、間違った知識を植え付けていることにもなる。なぜ、ホタルが自生できる環境を整えようとしないのか?そうすれば、放流などを繰り返し行う必要はない。ホタルたちが、自分たちで世代交代を行うように繁殖するようになるのだ。
 誰かが、言わなければならない。「ホタルの幼虫放流は、邪道だ」と。
 私たちは、ホタルの生態と生息条件、そして生態系を学び、理解し、環境全体を保全、再生することに努めることが大切だ。幼虫を放流するならば、7月~8月に孵化したばかりの幼虫を放流すべきであるし、飼育するならば、放流のためではなく幼虫の生態観察のために少ない数を行うべきである。

 ホタルの幼虫放流を何年も続けている場所に、未来はない!

IMG_3318.jpg

ホタルの生息地風景
Canon 7D / SIGMA 15mm F2.8 EX DG DIAGONAL FISHEYE
絞り優先AE F20 1/20秒 ISO 1600(撮影地:千葉県勝浦市 2012.3.20)

参照:ホタル保護と再生の今日的問題

コメント(9)

こんにちは。
ホタルの保護について、理解が進みました。
やり方が間違っていると、結局、無駄なんですね。

おっしゃるとおりですね。
メディアも相変わらずです。
無益な幼虫放流はやめましょう。

ホタルの「卵、幼虫、蛹、成虫の生活の場所が違う」ということを真に理解していなければ幼虫を放流しても無意味(無益)ということを知りました。
ホタルが育つ環境の整備は時間がかかるのでしょうけれど
ホタルだけでなく昆虫達、そして植物にその環境の保全、再生が
大切なように思えます。

私が、このような記事を書いても、依然として新聞では「ホタルの幼虫を小学生が放流」という報道が絶えない。
「1,500匹の終齢幼虫を鑑賞のために放流」などど、よく記事に書けたものだと思う。事実をそのまま伝えるのは、報道として正当だが、ホタル幼虫の放流の意味を考え、私のような意見も報道していただきたいと思う。
放流する側も、未だに理解していない。
ホタルは、ただの見世物としての存在なのか?問いただしたい!

そういわれると私も先日TVで子供たちが、
紙コップに入れられた幼虫を放流するのを見ました。
最近、ホタルの里をうたう場所がたくさんあり、
こうしてホタルを殖やしてゆくのかと、
何の疑問も持たず見ておりました。
やはり、マスコミも鮭の稚魚放流と同じ感覚で、
話題にし放映してるのでしょうね。
放映するには、もうちょと勉強してほしいですね。
今回、此方の記事を読み大変勉強になりました。

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