ホタル百科事典ホタルの飼育と観察日誌

東京にそだつホタル

ゲンジボタルの飼育と観察日誌(2002年11月)

2002年11月02日

私は、とうとう体調を崩し4日間寝込んでしまった。寝ながらホームページの手直しを少しずつしていたが、ゲンジボタルの幼虫の観察はほとんど出来なかった。大夫体調も改善したので、週末恒例のカワニナの殻取りを行う。一週間で65個のカワニナが食べられていた。2週間前は73個であったので、幾分食べる数が減っているが、実は食べるカワニナの大きさが大きくなっているのである。2週間前はおよそ12mmのカワニナが大部分を占めていたが(与えたものがそうであったため)、今回は18mmくらいのものが3割、12mmくらいのものが7割である。
ゲンジボタルの幼虫は20mmを越えるものが多くなってきた。これまでは、飼育槽底面の約4割は、砂を敷くだけで隠れ家となる小石等は置いていなかった。そのために隠れ家でもひしめき合う状態であるため、備長炭を適度に砕き、飼育槽底面全体に幼虫が広がるように、1週間ほど前に追加しておいた。効果は抜群で、幼虫は適度に分散している。ただ、小さい2齢幼虫たちは、下部水槽から汲み上げた水が落下する場所から5〜6cmのところにある石や炭の下が好みのようである。カワニナもその辺りで食べている。その部分から離れた場所にはほとんどいないのである。
水が落下する場所では、そうでない場所よりも水流が激しい。関係があるのであろうか。昔の記録では、エアーストーンにくっついていた2齢幼虫もいた。自然の川では調査したことがないが、自然の川に置き換えれば、段差があり滝になっている近くか、瀬よりも水流のある淵になるのであろうか。下流よりも上流ということなのであろうか・・・・・・。興味ある事実である。

2002年11月03日

昨日、東京地方で木枯らし1号が吹いた。紅葉はまだだが秋が深まり少しずつ冬がやってくる。ゲンジボタルを飼育していると、特に季節を感じるものである。
久しぶりに、我が恩師、浅田先生の本を読んでみた。誠文堂新光社から昭和49年(1974)に出版された自然の記録シリーズ「北国に育つホタル 〜私の観察日記」である。宮城県栗原郡金成町にある、北限のゲンジボタル集団発生地として国から特別天然記念物に指定された板倉堰とゲンジボタルの保護と人工飼育の記録である。その飼育の苦労と工夫、保護のための努力が解りやすく書かれている。子供向けの本だが、私には昔から宝である。原田一美先生の「ホタルの歌」もすばらしいが、文学的より科学的なところが良いのである。
冬の飼育水槽の水温を上げるためにお湯を入れたり、ヒーターをつけたり、今思えばそんなことする必要もないこともある。しかし、1500匹の幼虫(10mm〜20mm)が一週間で3000個のカワニナを食べてしまったことは納得がいくし、ゲンジボタルの幼虫の飼育水槽での集団上陸の様子は、私は未だにお目にかかったことがない。飼育日誌というものは、研究の一番根幹になる大切なものとあらためて感じる。かのフランスの昆虫学者ファーブルも、よく観察し記録していた。観察力と論理的思考能力が大切なのである。先生もよくおっしゃっていた。ゲンジボタルはいろいろなことを教えてくれる・・・・。

2002年11月06日

週の半ばだが、水換えの時にカワニナの殻を取り除いた。13個あった。5日で13個はこれまでに比べるとかなり少ない。水温は16℃。食べているカワニナが大きいために、1個食べ終えるまでに15〜20時間くらいかかっている。これまででは、夜間のうちに食べ終えてしまっていた。

2002年11月09日

残りのカワニナが12個になってしまったので、恒例のカワニナ採集に出かけたが、何とカワニナがいないではないか。気温水温ともに低く、カワニナがみな泥の中に隠れていてなかなか見つからないのである。水中の落ち葉を裏返してもどこにもいない。ようやく43個採集したところで引き返した。今回はみな2cmくらいの大きいものばかりであるが、幼虫も大きいので食べてくれるだろう。
午後からは、「日本ホタルの会」の11回ホタルシンポジウムに友人の宇田川氏と出かけた。会長の矢島稔先生の挨拶からはじまり、5人の研究発表があった。いろいろ勉強させてもらい、ホタル保護への気持ちを再認識させてもらった。
さて、幼虫であるが、水温が16℃まで下がってきてはいるものの、いたって元気である。日中に石の陰から顔を覗かせているものも何匹かいるが、暗くなると、ぞろぞろと這い出してくる。最近では、側面に張り付いているカワニナも襲って食べている。また、石の上に体をへばり付かせて、石の下にいるカワニナに頭を突っ込んでいるものもいる。堂々と丸見え状態なのである。この時に気が付いたのだが、幼虫は食事中は全てのえらをピンと張っている。消化吸収するために大量の酸素が必要なのであろう。

2002年11月13日

ホタル飼育観察日誌も間があいてきた。毎日、水換えをし観察はしているが、日誌に記録するほどの出来事がないのである。水温は日中は18℃まで上がるが、夜間は15℃を下回ることもある。カワニナは不活発で幼虫は元気である。食事量はかなり減っているが、もう生きているカワニナが11個しかいない。
夜23時40分、飼育水槽の蓋をそっとどけてみた。光っている。ゲンジボタルの幼虫が1匹だけ光っている。わずか5秒たらずだが、久しぶりの「ホタルの光」である。幼虫は孵化後は結構光っていたが、その後はなかなか光らなくなる。上陸前になるとかなり光るようになるが、きっと蓋をどけたことがちょっとした刺激になり驚いたのだろう。威嚇の意味も有るかも知れない。何とか写真に収めたいが、さてどのような工夫が必要であろうか・・・
撮影は、いずれトライすることにする。

2002年11月14日

朝、水槽をのぞくと、あちこちの備長炭の上に大きなゲンジボタルの幼虫が1匹ずつ陣取っていた。明るくなっても炭の下に隠れないのである。ここ1週間ほどずっとそうである。水槽の上に蓋をしているので少し薄暗いからかも知れない。もちろん直射日光が当たれば隠れてしまう。よくみるといろいろな石の影からたくさんの幼虫が頭をこちらに向けて出している。食べるカワニナが少ないと言わんばかりに・・・。ついでに枯葉をどけてみると、15mm〜20mmの幼虫が30匹ほど隠れていた。つまり、ちょっと見ただけで50匹くらいの大きな幼虫がいるわけであり、当然全体ではこの倍以上はいるので、このままいけばかなり多く(60匹以上)のゲンジボタルの成虫を羽化させることができるかも知れない。
多すぎる!自然界では、1匹のメスが産んだ卵から成虫になるのは、せいぜい3〜4匹だからである。少ないようだが、自然界ではこの数でちょうど集団が維持できるのである。人工養殖はやはり良くないと実感する。
と思いながらも、本日カワニナ採集に出かけた。いつもの場所はほとんど日陰であるために前回はほとんど採集できなかったが、その場所より少し下流のどぶ川のようなところに、沢山のカワニナを見つけることができた。日当たりがよく、とても活発に枯葉を食べていたので、容易に採集でき、様々な大きさのものを80個。これでしばらくは大丈夫であろう。
その場所にいくまでに、国立(くにたちと読む)の一橋大学通りを通るが、ここは桜とイチョウ並木がすばらしい。桜は朱色にイチョウは黄金色に染まり、すっかり秋本番である。空は晴れ渡り、風もなく、午後の柔らかい日差しに紅葉した木々の彩りが温かく感じる。東京生まれで東京育ちの私は、日常の雑踏にもまれると身近な自然にも気づいていないことが多い。私だけでなく、大勢の東京人がそうであろう。しかし、幸いにしてホタルに興味を持った私は、ことある毎に自然との時間を取り戻すことができるのである。ゲンジボタルは色々なことを教え気づかせてくれるのである。
余談であるが、町の紅葉に感動した時カーステレオから流れていたのは、お気に入りのカセット、曲はウィンダムヒルレ−ベルのジョ−ジ・ウィンストン(ピアノ)とウィリアム・アッカ−マン(ギター)である。秋をよりメランコリーに、そして自然を身近にしてくれるアーチストである。

2002年11月17日

カワニナの殻を取り除いたが、数は10個。4日で10個とは随分ペースが落ちてきた。
餌を食べる幼虫は大きい幼虫が多く、小さい幼虫は、時折大きい幼虫の脇からおこぼれを頂戴しているのが見られるが、小さいカワニナが存在してもほとんど食べていない。水温は14℃〜16℃で、1、2週間前とあまりかわらない。日中でも石や備長炭の上にしがみついているのも変わらないが、夜間にはあまり活発に活動しなくなってきている。微妙な水温変化で餌を食べる量をコントロールしているのかも知れない。
発光するところを写真撮影しようとしても、めったに光らない。たまに弱く発光するだけである。幼虫の居場所にも変化が見られる。以前多く見られた下部槽から吸い上げた水が落ちる場所の周辺からは、幼虫が見られなくなってきた。それ以外の場所に分散してきている。また、大きい幼虫数匹が寄り添っている場合もある。幼虫は完全な冬眠はしないが、いかにも冬が近いことを感じさせる。カワニナも、2,3カ所に集合するようになっている。
飼育水槽を室内においている限り、水温が極端に低くなることはないので、今後も摂食行動はみられると思うが、その量はかなり減ると予想できる。そして、来年3月上旬までは、その状態が続くであろう。これからは、観察者にとって更に退屈な日々となるだろう。

2002年11月19日

カワニナが全部ではないが、装置内の下流部分に集合している。自然界においては、日当たりの良い浅瀬やよどみの部分に集まり、底の泥などに潜るという行動が観察できるが、本日23時、水温17℃でも同じ行動を示している。しかし、ゲンジボタルの幼虫はそれ以外の場所にいるカワニナを襲って食べている。活動は鈍いが、4個ほど食べていた。大きな幼虫は成長が止まったように思われる。まだ終齢には達していないようだが、餌食行動はあまり見られない。カワニナを襲って食べているのは、それよりも一回り小さいサイズの幼虫である。いまだに2齢ほどの幼虫を除くと、4齢もしくは5齢の段階でこれらの幼虫は冬を越す前に成長(体長・体重)を揃えるように思われる。

2002年11月20日

カワニナの殻を取り除いた。4日で7個である。17日の時は、4日で10個だったのでまたペースが落ちてきた。2cmの幼虫が食べ終わった後の2cmのカワニナに5mmほどの幼虫が5匹群がっていた。
今やホタルの人工飼育は簡単であると思う。ゲンジボタル=清流のイメージがあるが、決してそうではない。餌の供給さえ出来れば、こんなに安い装置で、しかも水道水で多くの幼虫を育てることができる。小さな水槽で100匹以上羽化させることも可能である。30年前では不可能であったことが、現在では容易である。それなのに、自然界では乱舞する場所は多くない。人工養殖と自然界での発生を比べること事態に無理はあるが、それにしても自然環境の悪化が想像以上に進行している証拠である。
人工飼育では、まず水質は農薬の混入などなくパーフェクトに近い。そして上陸する岸も容易できる。羽化すれば、箱の中で強制的に交尾させてコケに採卵できる。問題はカワニナの供給だけである。今日の自然の川での保護も同じであると思う。農薬の混入を防ぎ、ゴミを拾って水をきれいにし、コンクリート護岸を止めて土盛りして草を植える。周辺には木立をつくりコケも繁殖すれば、環境的にはいいように思う。しかし、カワニナが沢山いなければならないので、カワニナにジャガイモなどの餌をやって増やす。これでは狭い水槽での人工養殖と何ら変わらない。人がカワニナに餌をやることを止めただけで、ホタルは減ってしまう。ゲンジボタルではなく、いかにカワニナが沢山自然繁殖してくれるかがポイントなのである。それには、他の水生昆虫や魚類、珪藻類との関わりも調べなければならないし、結果として周辺や上流の雑木林や水源林の管理をしなければならない。そこに棲む生物と無生物すべてが何らかの形で関係しあっていて、バランスを保っている。そして1つ欠ければ成り立たないのが自然であり、生態系というものである。
だから、自然界は難しいし、すばらしいし、尊いものである。。人工養殖・飼育は、生態系など関係なくゲンジボタルの都合に無理矢理合わせているだけのことである。だから、簡単なのである。

2002年11月24日

まもなく11月も終わりいよいよ師走である。8ヶ月間の水中生活の折り返し地点である。ここで、その半分を振り返って幼虫の成長について気が付いたことをまとめてみたいと思う。(ニュースレターにて報告)
今日の幼虫の様子 − カワニナを食べている幼虫は2匹しかいない。石の下や落ち葉の下にいるもの、石の下から頭だけだしているもの、石の下に頭だけ隠しているもの(頭隠して尻隠さず)様々である。

2002年11月28日

今日の水温(23時現在)は17℃。室内に暖房をしている関係で水温が若干変動している。この微妙な1〜2℃の差に敏感に反応しているのは、カワニナである。17℃くらいでは、脱走するものがかなりいる。つまり、活発である。15℃を下回るとほとんど動かないでいる。ゲンジボタルの幼虫の方は、小さいものは餌を食べ、大きいものは、ほとんど動かないでいる。死んでいるかのようにじっとしている。ただ、大きい幼虫が2匹脱皮しており、さらに大きくなった。(25mmほど)5齢、もしくは終齢に達したかもしれない。


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