ホタル百科事典ホタルの飼育と観察日誌

東京にそだつホタル

ゲンジボタルの飼育と観察日誌(2002年10月)

2002年10月1日

本日、戦後最大級と言われるほど大型の台風が東京を通過した。風雨ともにつよく大荒れの天候となり、ゲンジボタル生息地の状況が心配である。

2002年10月06日

このところ、ゲンジボタル飼育日誌を更新していないが、それほど変化のない毎日なのである。
先月よりは、ゲンジボタルの幼虫の食欲は盛んではなくなったが、順調に生育を続けている。飼育槽内に落ち葉を3枚ほど沈めてみた。カワニナの脱走を少しでも防げるかと思い、カワニナの餌として入れてみた。しかし、相変わらず大脱走は続いている。2層の外側に皆、逃げてしまうのである。勿論、ゲンジボタルの幼虫から逃げているのである。
ただ、落ち葉の下では、2cm弱の幼虫たちが石の下に隠れることなく、カワニナを食っていた。現在、水温は22度。今月中に大きくなった幼虫の数で、来年の上陸数が確定すると思われる。

2002年10月09日

先週は、食べられているカワニナの数が少なく、昨日(22時頃)も多くのカワニナが元気でいた。しかし、今日(23時現在)水槽を確認すると、かなりの数のカワニナが空になっていた。幼虫の水槽には30個〜40個のカワニナが同居しており、幼虫は自然界のように餌を探しまくる苦労なしにありつける状態にしてある。矢島稔先生のこんな報告を思い出す。幼虫を1匹ずつ飼育し、カワニナを1個ずつ与えるが、1個食べ終わると次に与えるのはその1週間後にするというものである。これで幼虫は孵化してから上陸するまでに平均25個のカワニナを食べたというのである。これは、自然界と同じようになかなか餌にありつけない状況にした実験である。
四六時中、沢山のカワニナの側で生活する幼虫は、いったい何個食べるのであろうか。

2002年10月10日

今回の飼育の目的は、先に記したように1.フィールドにおいてのゲンジボタルの観察には限界があるため、飼育により産卵から羽化までの生態を観察する。2.観察から得られた事柄が自然界でも同じであるか検証する。また、ゲンジボタルが生きていく上で自然界において何が重要か(ことに生態系)を明らかにする。3.これまでに収めることのできなかった生態写真を撮影する。ことであり、飼育方法そのもの、或いはより多く飼育する(大量養殖)方法を模索するものではない。しかしながら、過去にいくつもの飼育装置を作り、また様々な飼育方法を試みてきた上での今回の飼育装置と方法は、ほぼ成功と言えるのではないだろうか。全体の生存数は明らかではないが、目測での生存数や成長度合いをみると、過去のどれよりもすばらしい結果を生んでいると思う。ちなみに一番大きい幼虫は、今日現在およそ2cmである。また、成長のばらつきも小さくなりつつある。(ただし、いまだ5mm程度の幼虫は存在する)

2002年10月11日

ゲンジボタルの幼虫の飼育槽の中には、一面に砂を敷き、半分は砂だけで水中に落ち葉を沈めてあり、、残り半分には様々な大きさの石や備長炭を入れてあるのだが、小さい幼虫のすべてが、その石と備長炭の裏側にへばり付いている。大きい(10mm〜)幼虫は石の下にいるものもいるが、落ち葉の下にも隠れている。
ゲンジボタルの幼虫は大きさにより隠れる場所(環境)が違っているのである。特に小さい幼虫は川底の奥まで入り込むようである。大きい幼虫は尾脚の力も強く、ちょっとした石に尾脚でしっかりと固定することができ、落ち葉などの物陰に隠れる程度で十分なようである。そして、その隠れ家やそこに近い場所でカワニナを食べている。
ゲンジボタルの幼虫がどんどん死んでいってしまうのは何故か」という質問をいただくことがあるが、飼育環境をたずねると、底に砂や石を敷いていない場合が多い。幼虫の姿が見えるし観察しやすいという理由からであるようだが、それは飼育者の都合であり、幼虫にとっては地獄の毎日に違いない。本来の自然の川と同じような環境にしてはじめて本当のゲンジボタルの幼虫の行動が観察できるのではないだろうか。

2002年10月12日

今日は、カワニナの採集に出かけた。だいたい2週間おきに出かけている。いつもように1cm弱のものを100個体採集したが、2週間で食べられてしまうのである。
これまでにおよそ600個体のカワニナが食べられているのであるが、これだけのカワニナを養殖するのは容易なことではない。
今回の飼育は、カワニナ生息地があってこそ成り立っている。

2002年10月14日

午前中2〜3時間だけ装置の蓋をはずして日光を当てるようにしてみたところ、カワニナの大脱走がかなり防げるようになった。カワニナもどちらかと言えば夜行性で、日中でも薄暗いと活動が盛んである。日光を当てることにより大人しくなったようである。いや、これまでのように慌ただしくなく、落ち着いたようにも思える。自然の摂理なのだろうか。何でも人工的、飼育者の勝手では、野生の生物は本来の行動を失ってしまうものである。

2002年10月15日

国内には多くの方がゲンジボタルの飼育をされている。その目的は一体なんだろうか。
沢山の種ボタルから採卵し、今回の飼育装置の数を増やして沢山の幼虫を飼育し、来年の3月頃に放流したら、きっと数千匹のゲンジボタルが乱舞することだろう。
生息地の環境や生態系を無視した「ホタルの里親制度」方式である。こんなことを繰り返しても、本来のホタルの住む環境は取り戻せない。今回の飼育で明確になったことは、例えば沢山の幼虫がそろって大きく成長するには、多くのカワニナが必要であるということである。生息地の小川では、ちらほら見える程度ではだめで、かなりびっしりいるという程でなければ、数千のホタルは乱舞しないのである。
西日本では、カワニナの群生が多くの場所で見られるが、東京では群生はほとんどない状況である。その違いがそのままゲンジボタルの発生数に現れている。
ゲンジボタルの飼育から沢山のことを学び、それを自然環境の保護・保全・再生に結びつけなければ、ゲンジボタルを飼育する意味はないのである。

飼育しているゲンジボタルの幼虫は、薄暗くなる夕方頃、石の間から顔を覗かせている。そして室内の明かりが消える23時を過ぎると、一斉に活発に動き出している。屋外ならばもっと早くに暗くなり、幼虫の活動時間が長くなるが、活動の目的はカワニナを捕らえて食べることだけである。幼虫はカワニナを捕らえると石の陰に引きずり込んで、夜が明けても食べ続けているので、室内でいつまでも明かりが消えず、屋外に比べて活動時間が短くても(4〜5時間短い)それほど影響はないようである。

2002年10月16日

ゲンジボタルの飼育装置の水温は、8月は28℃、場合によっては31℃くらいになったが、このおよそ一ヶ月間はずっと22℃で安定している。生息地よりも5℃前後高い水温である。水温の違いと成長度合いの比較を行ったことはないが、行動の活発さや成長を見ると、幼虫にとってはひじょうに快適なようである。

2002年10月17日

早々と、ついに2cmを越える(約2.3cm)ゲンジボタルの幼虫が現れた。5齢幼虫と思われる。10月にこれほどまでに早く成長した理由は、カワニナが豊富に存在したからに他ならない。他の幼虫の大きさを見ると、11月下旬までには、多くの幼虫が同じように成長すると思われる。今年中には終齢まで達するかも知れない。これは、決して珍しいことではない。以前にも経験があり、また、文献にも報告がある。しかし、自然界では稀なことであると思う。生息地で3月上旬に2.8cmほどある幼虫を観察したことがあるが、自然界では、水温やカワニナの捕食量から考えて、この頃にようやく終齢になると思われる。

2002年10月19日

一週間毎に食べられたカワニナの殻を取り除き、二週間毎に補充するというサイクルなのだが、先週100個のカワニナを補充したが、本日取り除いた殻は、73個。たった一週間で73個のカワニナを食べてしまった。といってもホタルの幼虫の総数(おそらく100匹前後と思われる)から見れば、1匹が一週間に1個くらいしか食べていない計算になる。なかには、2個以上食べるものもいれば、まったく食べないものもいる。あるいは、小さい幼虫が5匹くらいで大きなカワニナを食べていたり、大きい幼虫が食べているところへ小さい幼虫も一緒に潜り込んでいることもある。
ゲンジボタルの幼虫がすぐにカワニナに出会える状況でも、1匹の幼虫が食べるカワニナの量は一週間から10日に1個前後のようである。ただし、幼虫の密度によっても違うかも知れない。
装置を自然界の生態系を再現したもの、いわゆる生態槽で行っている施設もあるようだが、例えば100匹の幼虫を飼育するには、そこに常に100個のカワニナが繁殖していなければならない。そのような環境は狭い水槽では作り出せないと思う。
あらためて自然界のスケールの大きさを知り、その仕組みを学ぶ必要があると思う。
そして、それを水槽で再現するのではなく、自然の川が維持してくれるように手助けすることが大切であると思う。
ちなみに100匹の幼虫がすべて上陸するまでに、約2400個のカワニナが必要になる。

2002年10月21日

午後9時。日課となった水変えをする。下部槽に落ちたゴミやカワニナの糞をチューブを使って取り除きながら、全体の2/3程の水を換えている。新しい水は、相変わらず浄水器を通した水道水である。まったく問題はない。そういえば、線虫の発生も全くない。過去にヘイケボタルの飼育をしていた頃は、しばしば線虫の発生があった。幼虫に直接害は及ばさないようであるが、大量に発生すると始末が悪い。彼らは餌の貝について進入してくる。そして、水質が悪化すると大発生してしまう。当時は、濾過装置も貧弱で水換えもあまり行わず、また総水量も少なかったことが原因であると考えられる。あれから20数年後の今では、線虫の発生は全くない。
採集してきたカワニナを飼育水槽に投入する前に、糞を沢山させて、また泥や砂をはかせている。0.1%ほどの食塩水にいれるのも良いと思うが、それは行っていない。
あとは、「こなれた水」づくりがポイントであろう。
今日のゲンジボタルの幼虫の様子は、数匹が石からはみ出すように見え隠れしていた。また、2cmくらいの大きいカワニナを独り占めするものもいた。相変わらず、石と石の間に体を挟むようにして頭を殻に突っ込んでいる。
そろそろ来年のゲンジボタルの幼虫の上陸用装置の構想を頭の中で思案しなくては・・・・

2002年10月26日

昨日とうとうカワニナが全部食べられてしまった。2週間で100個である。今日の天気は雨という予報であったが、朝起きるとまだ降ってはいなかったので、早速朝6時よりカワニナ採集である。まだ薄暗く、懐中電灯で照らしながら、小川に沈む落ち葉を丁寧に裏返して1cm前後のカワニナを100個採集した。採集を終えた7時過ぎには、雨が降り始めた。
ゲンジボタルの幼虫は、それぞれが1個のしかも自分の体長と同等かそれ以上のカワニナを食べるために、成長度合いも早く、食べられるカワニナの数も飛躍的に多い。ゲンジボタルの幼虫は1ヶ月の絶食にも十分耐えるが、餌が豊富であると4〜5ヶ月で終齢幼虫に達するようである。ただ、水温が下がる12月から2月までは、冬眠はしないまでも活動は鈍くなり、水底の石の下でじっとしていることが多くなるので、それまでに十分成長しておくことは必要なことと考えられる。

2002年10月28日

ゲンジボタルの幼虫の成長度合いの違いがより明確になってきた。15mm〜20mm(4齢)の集団と5mm(2齢)の集団に分かれている。後者は、9月上旬頃よりまったく成長していないのである。稚貝を与える数が少なかったが、それでも食べることが可能な大きさのカワニナを与えていた。それでも成長しないのである。3齢になったものは、順調に4齢へと脱皮している。翌年に成虫にならずに、2年以上水中生活するものは、すでに2齢幼虫の時に決定するのではないだろうか。また、それを決定させる要因は何なのであろうか。1匹のメスが産んだ卵から孵化した幼虫でこの開きがあるのである。餌が豊富であれば成長が揃うというのは、間違いかも知れない。
最近では、カワニナを砕いて与えることもなく、そのまま放り込んでいるだけで、どんどん食べている。日常管理は、2/3の水換えだけである。

ホタルの幼虫の各齢と大きさの分布
graph 1. A size distribution of the larva of a firefly

2002年10月28日

カワニナの脱走がなくなった。この秋一番の冷え込みになった今日。水温は18℃。室内なので外に比べれば高いが、カワニナの活動がかなり鈍くなってきた。そのために、壁をよじ登って外側の水槽に脱出するものがいなくなったのである。ホタルの幼虫は変わらず活発であるために、カワニナを襲いやすくなっているようである。

ホタルの幼虫の成長速度曲線グラフ
graph 2. The growth curve of the larva of a firefly


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