ホタル百科事典ホタルの飼育と観察日誌

東京にそだつホタル

ゲンジボタルの飼育と観察日誌(2002年9月)

2002年9月01日

2〜5ミリくらいのゲンジボタルの幼虫は、石の裏にへばりついている。石は小石ではなく、直径が3cm以上でざらつきがあり、まるくなく平たいものが多い。尾脚でしっかりと固定している。1cm弱ほどの幼虫は、比較的小さな石(直径2cm)の下にもいるが、石の裏にへばりつくのではなく、石の下の砂に中に体を半分隠した状態でいる。いずれも、幼虫が日中隠れる場所は、底の砂とその上の石の間に潜り込んだ所である。
かつて、底に何も敷かずに、小石とレンガの砕いたものを置いた装置で飼育したこともあるが、この場合はゲンジボタル幼虫の死亡率が高く、後に砂を敷くようになった。
理想的な底床は、砂を敷き、大小さまざまな石を置くことであると思う。石は敷き詰めるのではなく、あくまで自然の川の底のようにすることが、大切であると思う。

2002年9月04日

これまでカワニナの稚貝がなかなか手に入らず、1〜2齢のゲンジボタルの幼虫には、少し大きめのカワニナの殻を砕いて半死状態にして与えていたが、ようやく自力でカワニナを襲える大きさまで成長してきた。1〜2齢幼虫に対して、どれだけカワニナの稚貝を供給できるかが、幼虫を早く沢山大きく育てるポイントになることは言うまでもないが、自然界の小川では、その密度を考えればそう餌に出会えるものではないと言える。まだ実際に見たことはないが、九州など数万匹が発生する場所では、どれほどカワニナの稚貝が生息しているのだろうか。

2002年9月05日

家族の理解を得るのも大変で、しかも飼育装置を置くスペースも限られる都合上、現在はカワニナの飼育はしていない。今後、カワニナの飼育(養殖)方法確立に向けた研究を進める予定ではいるが、今のところホタル幼虫の飼育数も少ないために、ホタルの生息していない自宅近所の小さな小川より、月に1,2回、カワニナを少しずつ採集にいっている状況にある。その小川は、雑木林沿いに流れる湧水で、底質は砂礫、水深2cm〜6cm。流速は、毎秒およそ5cm。時折、日が差す程度で1日の大半は日陰である。ケイ藻類の繁殖も少なく、水辺からの植物のたれ込みなどもほとんどない。カワニナは、もっぱら落ち葉を食べている。落ち葉をめくると、稚貝も沢山付いているのである。ここのカワニナは、水深が20cmくらいの水槽に入れると途端に元気がなくなり死んでしまう。水深が浅く、底質は砂礫で、弱い流れのある現在のゲンジボタルの幼虫の飼育装置がお気に入りである。カワニナによって、(その種類・生息環境によって)飼育方法を変える必要があるだろう。

2002年9月08日

これといって変化はない。おそらく、ゲンジボタルを飼育している方々も同じ意見だろう。
しばらくは、こんな日々が続くに違いない。しかし、幼虫はカワニナを食い、脱皮をし、毎日成長し続けている。装置の点検と2日に1回全体の1/3程の水変えは怠らないようにしている。水変えは、濾過装置では除去しきれないだろうアンモニア化合物を取り除くために行っている。高性能の浄水器を通した水道水である。

2002年9月11日

ゲンジボタルの幼虫の成長はめざましいものがある。一番大きいもので1.5cmになっている。孵化後およそ2ヶ月であるが、成長のばらつきがより一層目立っている。すべてが2齢以上になっているが、大きい幼虫ほどよくカワニナを食べ、小さい幼虫はあまり食べないという状況がある。小さい幼虫は稚貝を食べてはいるが、例えば小さめのカワニナの殻を砕いて与えた場合に、孵化直後は群がって食べていたが、この頃はほとんど群がることはない。あまり食べないのである。よっていつまで経っても小さいままなのである。この時点で1年組と2年組が決まってしまうかも知れない。一方大きい幼虫は夜間に盛んに動き回り、ほどよい大きさのカワニナを独り占めにして食べている。このような成長のよい幼虫(推定3齢末期)は、孵化数のおよそ10%である。この数値は、1齢幼虫に対して稚貝を均等にしかも大量に供給することによりパーセンテージは大きいものとなると言われている。自然界ではどうなのであろうか。

2002年9月12日

ゲンジボタルが多く発生するためには、カワニナが大量に生息していることが必須条件であることは言うまでもない。しかし、自然界の川で幼虫がカワニナに出会う確立は、狭い水槽に比べれば格段に低いはずであるにもかかわらず、数万匹ゲンジボタルが発生する生息地があるのである。成長のばらつきは、どのくらいの割合なのであろうか。
1万匹のゲンジボタルが発生すると、メスはおよそ2千匹。産卵数が1匹平均500とすると孵化する幼虫はおよそ100万匹。次の年も1万匹が飛ぶためには、その1%が羽化することになる。自然界では、ゲンジボタルの成虫になるのは1%なのである。いや場合によってはそれ以下であると考えられる。勿論成長のばらつきも大きいに違いない。人工飼育下において、孵化数のおよそ10%がすでに大きく成長しているという状況は、自然界に比べればものすごいことなのかも知れない。

2002年9月13日

ゲンジボタルの幼虫は、大きめの石の下でカワニナを食べている。上からでは発見することができず、石をどかしてみて始めて発見できる。幼虫は背光性で僅かな光りも嫌う性質がある。また、石の下は外敵からも身を守ることが出来、安全なのだろう。こうした彼らの習性もあるが、飼育装置周辺の明るさの問題もあるだろう。光りを遮るように一部蓋をしているが、家の中は決して真っ暗ではない。
これも光害の1つとして挙げられるだろう。幼虫の成育度合にも影響があるかも知れない。ただし、日中も薄暗く日光が当たらないのも影響があるように思う。今後の研究課題である。

2002年9月18日

ゲンジボタルの幼虫の食欲には驚かされる。全体のおよそ6割以上(飼育装置の底面に砂・小石をしいているので明確に把握は出来ない)が1cmほどに成長していることと、餌として与えているカワニナの大きさが幼虫に丁度よい大きさであるのか、毎日カワニナの殻が増え続けている。絶食にも強いが、人工飼育で常に餌が身近にあり、いつでも食べられる状態では、幼虫の成長度合いは自然界のそれと比べて非常に高いと思われる。
カワニナの補給に頭が痛い。

2002年9月20日

これまでの研究で、9月下旬頃から11月下旬頃が幼虫期でもっとも食欲が盛んで成長度合いも大きい。「食欲の秋」である。幼虫の多くは、カワニナを捕獲したあと石の下に引きずり込んで食べている。上から見てすぐに発見できるような場所ではあまり食べていない。大きめの石をどけると、カワニナを食う幼虫やカワニナの殻が2〜3個は転がっている。このおよそ2週間で30個以上のカワニナ(1cmくらいのもの)が食われている。餌の供給が大変である。

2002年9月21日

餌のカワニナが減少したため、やむなくカワニナを採集に出かける。もちろんホタルは生息していない小さな流れである。5mm〜10mm程度のものを約30個採集。底の泥の上を這っていたり、水中に落ちた枯れ葉の裏についていたりする。ここでは、珪藻類の繁殖はあまりなく、もっぱら落ち葉を餌にしているようである。

2002年9月23日

これまでのゲンジボタルの幼虫の成長速度をグラフに表すと以下のようになる。一番大きいものでは15mm、一番小さいものでは未だ2mmである。数では10mm前後のものが約40%、10mm以上のものが約20%、10mm未満のものが約40%という割合である。
ホタルの幼虫の成長速度グラフ
グラフ.幼虫の成長速度(1目盛=10日)

2002年9月25日

これまでになく、夜間にゲンジボタルの幼虫の活動が盛んである。水温は22度前後(夏期は28度)。大きいホタルの幼虫は1匹で相当のカワニナを、小さい幼虫は10匹くらいが集団で1cmくらいのカワニナを食べている。観察するときは、懐中電灯を照らすず、そのままでは幼虫が驚いてしまうので、赤いパラフィン紙を巻いて照らすとあまり驚かず、カワニナを襲う瞬間を観察できる。大きい幼虫は、カワニナを捕らえると、尾脚を上手く使って後ずさりしながら石の下に引きずり込んでいる。
ゲンジボタルの幼虫が隠れる石には好みがあるようである。比較的大きく、丸くなく角のある石が好きなようである。また、装置内には備長炭を入れてあるが、その下が特にお気に入りで、多くのゲンジボタルの幼虫がその下に隠れている。

2002年9月28日

今日は、「東京ゲンジボタル研究所」のメンバーとともに、ゲンジボタル生息地へ観察会に出かけた。午前中は雨模様であったが、現地に到着すると雨もやみ、生息地の現在の状況を確認できた。特に、青梅市においては、新たにゲンジボタルの生息地を確認する事が出来、大きな収穫を得ることが出来た。そこは、都内の他のゲンジボタル生息地にはないすばらしい環境であり、カワニナも稚貝から、5cm程の親貝まで多数生息している。来年の6月が今から楽しみである。


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