ホタル百科事典ホタルの飼育と観察日誌

東京にそだつホタル

ゲンジボタルの飼育と観察日誌(2003年6月)

2003年6月1日

いよいよ6月。ゲンジボタル本番の季節が始まった。
観察用の蛹3匹は、今日ですべて羽化した。昨日羽化したメスのゲンジボタル成虫も含めて、まだ土まゆ(蛹室)の中で眠るようにじっとしている。上翅は、より一層黒々となり、前胸部の色も赤が濃くなり、黒い十字の模様がはっきりとわかるようになっている。

2003年6月3日 ベランダ水槽からゲンジボタル第1号、2号、3号

23時。ベランダの水槽をみると、鮮烈な光りを放つオスのゲンジボタルが羽化して地上に出てきた。室内の観察用装置からも、メスが土まゆから出てきた。腹部も含めて体はしっかりと固くなり、メス特有の少し丸みを帯びた体型である。
ベランダと室内観察用では、上陸に一週間のずれがある。ベランダの方が早くから上陸している。それにしても、初上陸から39日目で発生である。通常50日程度なので少し早い。今後の状況が楽しみである。
霧吹きを多めにし。人工的に雨を降らせておいた。
午前0時40分。もう1匹オスが羽化して出てきた。
その後もう1匹オスが・・・。これは、水槽から脱走してベランダの植木にいたものである。当初、ゲージの蓋を開けたときに逃げたものと思っていたが、後日6匹いることに気付き、水槽から羽化して脱走したものと判明した。(水槽の蓋に隙間があったのである。)

2003年6月4日

今日は、気温が低く20℃前後であった。そのためベランダの上陸水槽からの羽化はないようである。明日は気温が28℃の予想であるから、おそらく羽化してくると思われる。室内の観察用の成虫は残り1匹も土まゆから脱出した。この観察用では、オス1匹メス2匹が羽化した。通常、オスが先に羽化し、メスは1週間ほど後から羽化するものであるが、この観察用は、上陸開始から1週間ほど過ぎてからの上陸幼虫をランダムに選んだことと、室内で蛹化及び羽化までの期間が短縮されたことによるものである。ベランダの上陸水槽からは、まだオス3匹しか羽化していない。
現在の羽化総数は6匹(内メス2匹)である。ただし、下記のグラフには観察用の3匹は含めないこととする。この6匹は、すべてベランダの日陰になる場所に設置した成虫用のゲージ(先日作製した段ボール製)に放しているが、気温が低いので、まったく発光せずに葉や網につかまってじっとしている。
今後の観察ポイント
1)羽化率−60匹の上陸数に対して何匹羽化するか。上陸土壌との関係
2)羽化日−上陸から何日かかったか。気温や土壌温度との関係
3)雌雄の割合−1月時に選別した終齢幼虫、豊富な給餌との関係

2003年6月5日

今日は朝から夏のような天気で気温も上がったが、ベランダの水槽からは羽化発生はなし。日数的には、6月10日〜20日の間に多く羽化してくるのではないかと思われる。ゲージの6匹は今日はよく発光している。

2003年6月7日 近親交配を避ける発光によるコミュニケーション?
或いは発生直後のオスは生殖機能が不十分なのか?

3日以降羽化がまったくないのでも少々不安になってきたが、22時30分、オスが1匹羽化した。
やはりオスが最初に発生である。観察用の蛹は、雌雄ともに蛹化・羽化の日数に相違は見られなかった。上陸時に観察した際、幼虫の大きさからオスの幼虫が先に上陸していると考えたが、仮説は正しいかも知れない。
ここでもう1つ。ゲージ内にはゲンジボタルオス5匹、メス2匹いるわけだが、まったく交尾をしていない。観察していると雌雄の発光によるコミュニケーションはあるようだが、交尾には至らない。同じ親を持つ兄弟同士を、発光によるコミュニケーションによって区別し、近親交配しないようにしているのかも知れない。或いは、発生直後のオスは生殖機能が不十分で交尾に至らないのかも知れない。後者の方が、他の多くの昆虫ではそうであるようにオスが先に羽化することに納得出来る・・・・。
羽化した成虫を室内の特設セットにおいて撮影しているが、なかなか動きまわるものは難しい。蛹のようにじっとポーズをとっていてはくれない。かといって頭を下にして休憩モードでもつまらない。発光しながらいかにも飛び立つ前の瞬間が撮影したいのだが、100枚撮って1枚くらい撮れているかという割合である。

追記
飼育中の国産カブトムシが蛹化したようなので、ゲンジボタルの時と同じように土をそっと取り除いてみた。中型プラスチックケースに3匹の蛹と1匹の前蛹が現れた。ゲンジボタルよりもしっかりとした土まゆ(蛹室)である。そしてゲンジボタルとは違うオレンジ色の蛹である。子ども達は、図鑑ではなく生で見たことに興奮していた。

2003年6月10日 発生までの積算温度(仮説)

室内の観察用のゲンジボタルは土壌温度23℃で29日で地上に出てきた。その温度を積算すると670℃日になる。ベランダでの初上陸から地上にでてくるまでの39日の積算温度は678.5℃日、昨年の自然発生地での初上陸から初見日までの42日の積算温度は680℃日であった。データが少ないので確実性はないが、上陸から発生までの積算温度は、670〜680℃くらいなのではないだろうか。
T(土壌温度)×D(日数)=680℃日
つまり、20℃の土壌温度では、上陸から発生まで34日となる。

2003年6月11日 8日遅れでメスが発生

朝6時にベランダの上陸水槽をみるとメスが1匹ガラス面にいた。0時30分にはいなかったのでその後土の中から出てきたのであろう。オスの発生から8日目である。

2003年6月13日

メスが連続して羽化し、出てきている。しかし、これまでのオスも含めてまとまった発生がない。1日1匹、多くて3匹である。なぜ上陸の時のように10匹単位での羽化発生がないのであろうか。
これまで羽化したゲンジボタルはまだ1匹も死なずに生きているが、狭いゲージの中では飛んでも20cmですぐ壁にぶつかってしまう。それだからか、よく歩き回っている。横の網といい、天井の網といい、せせこましく光りながら歩き回っている。時折、葉の上や網に捕まったままじっとして強く発光している。
0時30分。水槽を見ると発光していたので羽化したのだろうと思い蓋を取ったが、上から見る限りゲンジボタルはどこにもいない。脇からライトを当てると、ガラス越しに地上から1cmほど潜ったところにゲンジボタルがおり、発光していた。これから地上に出るところだったのである。ほんとうに少しずつ土を崩しながら地上に向かっている。あの小さい弱々しい体では、実にたいへんな作業である。土が軟らかくなければ、決して出てくることはできないのである。

2003年6月15日 14日現在、生息地ではまだ未発生

昨日でベランダ水槽からは合計16匹、室内観察用を含めると19匹の羽化であるが、推定上陸数の約40%に過ぎない。
昨日は、青梅市の生息地に発生状況調査に出かけた。広葉樹林の中を流れる幅約4mの川の水は比較的低く、川の周囲の気温もその影響で低くなっている。そのためか、まだ全然発生していなかった。

2003年6月16日 メスばかりの羽化

上陸時の幼虫の大きさから(前月のグラフ参照)、メスの数が多いのではないかと推測していたが、実際に羽化がはじまって13日目の今日、オスの数よりもメスの数が上回った。オス:メスの比率は、およそ1:2で、メスが2倍の羽化である。通常、自然界での調査では、オスの方がメスの2倍から3倍の比率であるが、この現象は、1月の時点で終齢に達した幼虫ばかりを選別して上陸用水槽に移動させたことから起きている。つまり、1月に終齢に達した幼虫の多くが、メスだったのである。この比率は、今後の羽化数によって更に変化すると思われる。

このことから、次のような仮説が考えられる。

メスの幼虫は、コンスタントにカワニナを食べることができれば成長が早く、多くが終齢に達し、1年で成虫へと羽化する。しかし、オスの幼虫はメスに比べて成長が遅く、餌が豊富であっても成虫になるまで2年、あるいは3年要するものが多い。

自然界での、雌雄比率と成長年数(推定)

また、羽化の様子からも、前月の上陸数グラフの幼虫の大きさは、雌雄の違いを表すのに、かなり妥当であり、最初に上陸した幼虫がオスの成虫であったことから、上陸は間違いなくオスの幼虫が先であると言える。

2003年6月17日 交尾

羽化した成虫は、まだ生息地に放していないが、今朝、1ペアが交尾を行っていた。同じ親からのF1同士の交尾で、近親交配である。
雌雄は、交尾器によってしっかりとつながれており、簡単にはずれることはない。葉の上を大きなメスが移動すると、小さなオスは引きずられていく。
どうやらオスの成虫の生殖機能は、羽化後はまだ不十分らしい。昆虫生理学的な検証が必要であるが、他の昆虫、例えば蝶などと同じで、羽化後数日経たないと交尾できないと思われる。

2003年6月20日

飼育を再開して丁度1年が経過した。羽化も1匹になり、そろそろ発生も終わりという感じである。やはり、メスばかりの羽化である。

2003年6月21日

日中の最高気温が30℃を超える真夏日。風もほとんどなく、蒸し暑い。夕方からは少し雲も広がりはじめ、絶好のホタル飛翔日よりである。先週の土曜日は雨でホタルの発生はまだであった某所に一人で出かけていった。19時半に到着し、川原で待つこと30分。1匹が光り出した。20時15分には、およそ20匹ほどが飛翔した。メスの発生はまだであり、発生初期段階と思われる。来週以降はさらに数が増えると思われる。

2003年6月24日 発生3週間目

今日で第一号のゲンジボタル発生から丁度3週間目である。数は1日に1匹ずつと少ないが、相変わらず毎日のようにメスが羽化・発生している。上陸時は、見かけであるが、多いときは十数匹とまとまって上陸したが、発生(地上に出現)においては、決してまとまっていない。(ただ、上陸もおよそ3週間続いた。)
オスは、現在3匹となり、ゲージ内ではほとんどがメスばかりの状態である。28日にすべて生息地に放つ予定である。

2003年6月28日 すべて放す

今日、これまでに羽化し、現在生きているすべてのゲンジボタル(メス12匹)と産卵した卵およそ3000個を生息地に放した。自然の渓流で元気に繁殖してほしいと願う。
今日は曇りでまったく風がなく湿度も高い日であり、絶好のホタル飛翔日よりであった。
昼間は、陸生ボタルの種類であるオバボタルとクロマドボタルを観察する事が出来、夜間は生息地2カ所でゲンジボタルの観察を行った。今後は、飼育による観察から自然の生息地における観察を行っていく。

2003年6月29日 羽化率77%

羽化した成虫を放したが、昨日の夜間と今晩にメスが1匹ずつまた羽化してきた。
観察・撮影用を含めれば、総羽化数・オス9匹・メス31匹。合計40匹で上陸用水槽では、37匹である。羽化率は約77%である。

グラフ.人工飼育における羽化数の推移
グラフ.人工飼育における羽化数の推移
グラフ.羽化した成虫の集団数(生存数)
グラフ.羽化した成虫の集団数(生存数)


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