ホタル百科事典/ホタルに関する調査研究レポート

東京にそだつホタル

ミヤコマドボタル

2012年9月18日

ミヤコマドボタルの生息環境および生態に関する調査

  本レポートは、2012年9月8日〜9日の2日間、沖縄県立宮古高等学校の招きにより宮古島を訪れ、川端俊一教諭とともにミヤコマドボタルの生息環境および生態に関して、 調査を行った内容を報告するものである。

宮古島の概要

宮古島の地質

  宮古島の面積は約159kuで、茨城県の霞ケ浦(168ku)とほぼ同等の大きさである。宮古島の地質は、第三紀鮮新世から第四期下部更新世の泥岩、シルト岩、砂岩で構成される水を透しにくい島尻層群を基盤として、それにサンゴを主とする更新世琉球層群琉球石灰岩が厚さ50メートル、島の北東部においては120メートルも覆っている。表層土壌は、島尻マージ(暗赤色土)、国頭マージ(黄色土)、そしてジャーガル(灰色台地土)によリ構成されている。このうち島尻マージが最も広く分布し、宮古島の総耕地面積の89.9%を占めている。島尻マージは主に琉球石灰岩を母材とする土壌で、弱酸性からアルカリ性を呈する。全体的に風化土壌で堆積物も乏しいため層が薄く、透水性がよく、保水性に乏しい層となっている。また、島の北北西から南南東方向には、数多くの断層が発達しており、断層に沿って幅約100メートル、高さ約30メートルの石灰岩からなる堤防状地形が見られるが、比較的低平な地形であり、河川はない。

宮古島の気候・気象

  宮古島は沖縄本島と石垣島の間に位置し、年平均気温は23.6℃(1981年〜2010年累年平均)、最寒月平均気温は18.0℃(1981年〜2010年の平年値)であり、熱帯雨林気候に属する。 海洋性気候のため気温の較差が小さく、年平均気温較差は5℃弱である。湿度は通年的に高く、相対湿度は年平均79%に達する。
  宮古島の年間降水量は2,033.1mmで、わが国では降水量の多い地域に含まれるが、実際には乾季と雨季の差が比較的はっきりしており、台風による影響を除くと、気温と降雨特性により7〜10月の乾季と11〜6月の雨季に二分することができる。乾季においては、台風以外の雨は期待しにくく、7月をピークとして厳しい干ばつに見舞われるのが通例となっている。

宮古島の植生

  宮古諸島のほとんどの地域は、サトウキビ畑等の耕作地として利用されており、平成7年のセンサスでは46.2%が耕地となっている。残されている森林はわずかに15%であり、概ねモクマオウや広葉樹二次林、またギンネムといった代償植生で占められ、自然植生は海岸付近や断崖、御嶽林に分布するのみである。自然植生としては、池間島の淡水湿地植生、宮古島の北西から南東方向に走る断層崖の尾根筋に生育するタブ群落等の風衝地植生、島尻のマングローブ林、伊良部島牧山のタブ林、白鳥岬の隆起サンゴ礁植生、西部の御嶽に生育するビロウ群落、伊良部島・下地島間のマングローブ林、下地島西海岸の隆起サンゴ礁植生、多良間島の御嶽林などがある。また、宮古島大野山林のリュウキュウマツ林は、下層にタブの幼木が生育しており、このまま人為的影響を受けずにいればタブ林へと遷移していくと考えられている。

ミヤコマドボタルの分布

  ミヤコマドボタル(Pyrocoelia miyako Nakane, 1981)は、ホタル科マドボタル属で、宮古列島(宮古島、下地島、伊良部島、来間島、池間島)のみに生息する固有種であり、 長崎県対馬や朝鮮半島に分布するアキマドボタルと祖先種を同一とすると考えられ、日本列島の地史的背景を把握する上で重要といえる。ミヤコマドボタルはアキマドボタルと同様、琉球列島のおいたちを物語るホタルの1種でもある。(大場)しかしながら、昨今の宅地開発等により生息地そのものが減少し、ホタルも減少傾向にある。環境省カテゴリでは準絶滅危惧(NT)にランクされ、 都道府県のRDBでは、沖縄県において準絶滅危惧種に指定されている。

ミヤコマドボタルの生息環境

島内における分布

  陸生のホタルであるミヤコマドボタルは、主として林と林に隣接する草地に生息し、サトウキビ等の畑地には生息していない。また、林であっても、まったく生息していない場所もある。今後、生息環境の詳細な調査と生態から生息条件を見出す必要がある。以下は、調査したミヤコマドボタルの生息地2カ所の環境概要である。

平良地区

  大野山林は宮古島で最も広い面積の植林地であり、リュウキュウマツの植林部が広く、他にテリハボク、ソウシジュ等の植林も見られる。高木層はリュウキュウマツの他つる植物が僅かに出現し、亜高木層にサルカケミカン、タブノキ、モクタチバナ等、低木層にクチナシ、ヤブニッケイ、シマグワ等、草本層にナガバカニクサ、ホシダ、ハマサルトリイバラ等が出現する。
  野原岳の東斜面は石灰岩の断層崖の様な地形をしており、その斜面に矮生した林が見られる。上層にはヤブニッケイ、モクタチバナ、ハマイヌビワ等、林床にはヤブラン、ヤブニッケイ等が出現する、宮古島を北から南へ走る構造線上の代表的植生であり、昔ながらの植生が残っている。
  林床は、島尻マージ上に落葉などの堆積物が積もっているが、層は数センチ程度で厚くはない。湿度は88%と極めて高いが、林床は乾燥している。林内は暗く、人工的な灯りは一切ない。また、夜間においても林外からの灯り(自動車のライト)は、一部を除いて入ってこない。ミヤコマドボタルは、19時10分頃から少しずつ発光し始めた。(日没18:49)林の中にも見られたが、林中を通る遊歩道の縁に見られた。数は多くはなく、林の中に点々と生息し、一望 1〜10頭程度である。成虫ばかりで幼虫は見られなかった。林内には、キイロスジボタル Curtos costipennis (Gorham, 1880) も生息していたが、棲み分けを行っているようである。

来間島

  来間島の北海岸は、長さ約 2.5kmの活断層と石灰岩堤に縁取られ、低木層にリュウキュウガキ、ナガミボチョウジ、シマヤマヒハツ等、林床にフウトウカズラ、コミノクロツグ、サクララン等が生育する。本地域のクロヨナ林は石灰岩台地の代表的な森林であり、非常に良く自然の状態が保存されている。表土は砂地で落葉等の堆積は少なく透水性がよい。近くには、湧水がある。ミヤコマドボタルは、森林の縁に多く見られたが、すべて幼虫であった。数は多く、場所によっては1メートル四方に10頭以上も見られ、全体で50m以上の範囲で発光していた。

ミヤコマドボタルの生息環境
写真:1.ミヤコマドボタルの生息環境(来間島)

陸貝

  石灰岩地は陸産貝類の種類と個体数が多いが、宮古島においては、アカマイマイ Acavus haemastoma (Linnaeus,1758) 、アオミオカタニシ Leptopoma nitidum (Sowerby, 1843) 、ウラキヤマタカマイマイ Satsuma Luchuhadra hemihelvus (Minato,1980)、イトカケマイマイ Plectopylis hirasei (Pilsbry,1904)、タラマケマイマイ Aegista osbeckii (Philippi, 1847) 、シュリケマイマイ Aegista elegantissima (Pfeiffer, 1849) の生息が確認されている。ミヤコマドボタルの生息場所には、これら陸産貝類たいへん多く生息しており、ミヤコマドボタルは、これらの貝を食べていると思われる。ただし、発見できるのは土壌ではなく、すべてが草木の葉裏であった。

ミヤコマドボタルの形態

  ミヤコマドボタルのオスの体長は12〜15o、メスは28〜30mm、オスは触角が発達し、複眼はゲンジボタルほどではないが、同属のクロマドボタルと比較して少し大きい。 前胸部はオレンジ色で2つの透明な窓を持っている。腹部第5節及び第6節全体が発光器になっており、またクロマドボタル同様に第7節の両端にも1対の発光器があり発光する。
  メスは翅が退化し痕跡を残すのみとなっている。これは、マドボタル属のメス特有の形態である。触角は短く、複眼も小さい。また、第5節の両端に1対の発光器を持っており発光するが、今回は死んでしまった個体で発光は確認できなかった。
  幼虫は、扁平で細長く黒褐色、背板側縁が茶褐色に縁取られており、尾端に1対の発光器がある。

発光するミヤコマドボタルの成虫(オス)
写真:2.発光するミヤコマドボタルの成虫(オス)

ミヤコマドボタルの成虫(オス)
写真:3.ミヤコマドボタルの成虫(オス)

ミヤコマドボタルの成虫(メス)   ミヤコマドボタルの成虫(メス)
写真:4〜5.ミヤコマドボタルの成虫(メス 死骸)

ミヤコマドボタルの幼虫
写真:6.ミヤコマドボタルの幼虫

ミヤコマドボタルの生態

  ミヤコマドボタルの生態に関しては、これまでほとんど調査がされておらず、他のホタル研究の文献に少しだけ書かれている程度である。今後は、沖縄県立宮古高等学校 生物部の 研究により、多くの事が分かっていくものと思われるが、今回、知り得た事と実際に観察した事及び疑問を記載しておく。

発生時期

  ミヤコマドボタルは、周年発生すると言われているが、幼虫の発光は一年中見ることはできても、成虫の発生は場所によって期間が決まっている可能性がある。。
  来間島では5月、下地島では8月が成虫の発生の最盛期という報告もあり、実際に2012年9月8日では、宮古島では成虫が見られたが、来間島では幼虫しか見られなかった。

雌雄のコミュニケーション

  ミヤコマドボタルは、夜行性で雌雄ともによく発光するが、オスの発光は明滅ではなく連続光である。地上100〜150cmほどの高さをゆっくりと飛ぶが、一回に移動する距離は5m程度で短い。メスは、林縁などで弱く発光し、その光信号によりメスを発見したオスは、地上に降りた後、メスのフェロモンに誘引されて近づき交尾に入る。これは、オスの複眼の大きさと触角の発達からも分かる。卵は淡黄色球状で直径はおよそ1mmで、メスは地表にバラバラに産み落とす。

ミヤコマドボタルの卵   ミヤコマドボタルの卵
写真:7〜8.ミヤコマドボタルの卵

幼虫の行動

  人工飼育による観察ではあるが、ミヤコマドボタルの幼虫は、昼間、陸産貝類が土に空けた穴(土に潜った穴)に1頭ずつ隠れてじっとしていた。
  夜間(来間島における野外観察)は、連続光を発しながら地表を盛んに這いまわっていたが、3頭ほど地上から2〜3mの高さの木の葉もしくは枝で発光していた。残念ながら、貝類を食べている様子は、野外でも飼育下においても観察できなかった。

土穴に潜むミヤコマドボタルの幼虫   土穴に潜むミヤコマドボタルの幼虫
写真:9〜10.土穴に潜むミヤコマドボタルの幼虫
土穴に潜むミヤコマドボタルの幼虫
写真:11.土穴に潜むミヤコマドボタルの幼虫

ミヤコマドボタルの幼虫が潜む土穴
写真:12.ミヤコマドボタルの幼虫が潜む土穴

総括

  宮古島は、地質特性から平坦で河川がないため、周辺の海は沖縄本島や八重山を凌ぐ美しさであり、来間島においては、海にはウミホタル、陸にはミヤコマドボタル、そして空には満天の星が輝くという、これまで経験したことがない素晴らしい光景に出合った。エコアイランドを標榜する宮古島。エコを掲げる事業が本格的に広がるにつれて、その波及効果は新たな問題も引き起こしている。行政も企業もエコ事業のあり方を考える上での課題は多いが、一番大切なことは、今ある目の前の自然環境を保全することである。 そのためにも、固有種ミヤコマドボタルの研究は重要である。生息環境と生態の解明から生息条件を見出し、現状の問題点を抽出して保全対策を考えることを早急に進めなければならない。

参考・引用文献


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